墓じまいとは？メリットや知っておきたい手順と費用について解説

近年、少子高齢化や地方からの人口流出により、お墓の維持管理に悩む家庭が増えています。そんな中で注目されているのが「墓じまい」です。墓じまいとは、お墓から遺骨を取り出し、墓石を撤去して墓地を元の状態に戻すことを指します。

この記事では、墓じまいの基本的な知識から具体的な手順、費用相場、そして知っておきたいメリット・デメリットまで詳しく解説します。お墓の管理でお困りの方や、将来的な負担軽減を考えている方にとって、適切な判断材料となる情報をお届けします。

墓じまいとは何か？基本的な定義と背景

墓じまいについて正しく理解するためには、まず基本的な定義と社会的な背景を知ることが重要です。

墓じまいの定義と改葬

墓じまいとは、既存のお墓から遺骨を取り出し、墓石を撤去して墓地を更地にして返還することです。単に墓石を撤去するだけでなく、遺骨を新たな供養先へ移す「改葬」とセットで行われるのが一般的です。

改葬とは、埋葬された遺骨を別の場所に移すことを指し、法的な手続きが必要となります。つまり、墓じまいは改葬を伴う墓地の返還作業として理解することができます。

墓じまいが注目される社会的背景

墓じまいが注目される背景には、現代社会の様々な変化があります。少子高齢化により、お墓を継承する人がいない「後継者不足」が深刻化しています。

また、地方から都市部への人口流出により、故郷にあるお墓の管理が困難になるケースも増加しています。全国の58.2％の自治体で「無縁墓」が発生しており、これは放置されたお墓が社会問題化していることを示しています。

墓じまいを選ぶ理由と現代的な課題

多くの家庭が墓じまいを検討する理由には、共通する課題があります。これらの課題を理解することで、自分の家庭に適した選択ができるでしょう。

遠方のお墓でお参りが困難な状況

最も多い理由の一つが、お墓が遠方にあることによる管理の困難さです。故郷を離れて生活している場合、お参りのたびに交通費や宿泊費がかかり、体力的・経済的な負担が大きくなります。

特に高齢になると、長距離移動が困難になり、お参りの頻度が減少してしまいます。その結果、お墓の状態を把握できなくなり、適切な管理ができなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。

金銭的負担の軽減を目的とした墓じまい

お墓の維持には継続的な費用がかかります。年間の管理費は2,000円から20,000円程度かかり、檀家料や修繕費なども必要になることがあります。

これらの費用は毎年発生するため、長期的に見ると大きな負担となります。墓じまいを行うことで、こうした継続的な費用負担を減らすことができます。

無縁墓化の危険を回避する予防策

管理者がいなくなったお墓は「無縁墓」となり、最終的には自治体が撤去することになります。しかし、この過程で遺骨の扱いや費用負担について問題が生じることがあります。

墓じまいを事前に行うことで、遺骨を適切に供養し、無縁墓化によるトラブルを未然に防ぐことができます。これは故人への最後の責任を果たすという意味でも重要です。

墓じまいのメリットとデメリット

墓じまいを検討する際には、メリットとデメリットを十分に理解して判断することが大切です。

墓じまいの主なメリット

精神的負担の軽減が最大のメリットです。お墓の管理義務や後継者問題がなくなり、家族の心理的ストレスが大幅に軽減されます。

金銭的な負担も減らすことができます。年間管理費や修繕費、交通費などの継続的な支出がなくなり、家計への負担が軽くなります。また、新しい供養方法を選択することで、アクセスの良い場所でお参りができるようになります。

墓じまいのデメリットと注意点

親族間での意見の相違が生じる可能性があります。特に年配の親族からは「先祖を軽んじる」といった反対意見が出ることがあり、合意形成に時間がかかることがあります。

また、墓じまいには初期費用が必要です。墓石の解体撤去費用、閉眼供養の費用、改葬先の契約費用など、まとまった出費が発生します。永代供養や合祀を選択した場合、後から遺骨を取り出すことができなくなる点も考慮が必要です。

墓じまい後の供養方法と選択肢

墓じまい後の遺骨の供養方法には様々な選択肢があります。それぞれの特徴を理解して、家族に最適な方法を選びましょう。

永代供養墓による供養

永代供養墓は、霊園や寺院が永続的に管理・供養を行う墓地です。個別型、集合型、合祀型の3つのタイプがあり、それぞれ費用や供養の形態が異なります。

管理費が不要で、お参りの際の負担も軽くなります。費用は5万円から150万円程度と幅広く、家族の予算に応じた選択が可能です。

樹木葬という自然志向の供養

樹木葬は、墓石の代わりに樹木を墓標とする供養方法です。公園型と里山型があり、自然との調和を重視する方に人気があります。

費用は8万円から80万円程度で、継続的な管理費は不要です。自然環境の中で故人を偲ぶことができ、従来のお墓とは異なる安らぎを感じることができます。

納骨堂の利用

納骨堂は、建物内に遺骨を納める施設です。ロッカー式から自動搬送式、仏壇式まで様々なタイプがあり、天候に左右されずにお参りできる利便性があります。

費用は10万円から150万円程度で、都市部でのアクセスの良さが魅力です。機械式の納骨堂では、カードをかざすだけで故人の遺骨が運ばれてくるシステムもあります。

散骨という新しい供養の形

散骨は、粉骨した遺骨を海や山、空中に撒く供養方法です。海洋散骨、森林散骨、バルーン散骨、宇宙散骨など、多様な選択肢があります。

費用は5万円から200万円程度と幅広く、故人の希望や家族の価値観に応じた選択が可能です。ただし、散骨後は遺骨の回収ができないため、慎重な検討が必要です。

手元供養の選択

手元供養は、遺骨の一部または全部を自宅で保管する供養方法です。骨壺での保管から、遺骨を加工したアクセサリーやダイヤモンドなど、多様な形態があります。

費用は数千円から3万円程度と比較的安価で、いつでも故人を身近に感じることができます。分骨により、複数の供養方法を組み合わせることも可能です。

墓じまいの手順と必要な準備

墓じまいを円滑に進めるためには、正しい手順を理解し、適切な準備を行うことが重要です。

親族の了承取得と合意形成

墓じまいを始める前に、まず親族間での十分な話し合いが必要です。墓じまいの理由、新しい供養方法、費用分担について明確に説明し、全員の理解を得ることが重要です。

特に年配の親族には、墓じまいの必要性と故人への敬意を保つ方法について丁寧に説明しましょう。書面での同意を得ておくと、後のトラブルを避けることができます。

墓地管理者との相談と手続き

親族の合意が得られたら、現在のお墓の管理者（寺院や霊園）に相談します。墓じまいの意向を伝え、必要な手続きについて確認しましょう。

管理者から「埋蔵証明書」や「収蔵証明書」などの書類を発行してもらう必要があります。寺院墓地の場合は、離檀の手続きとお布施の相場について事前に確認することが大切です。

石材店の選定と見積もり取得

墓石の解体撤去作業は専門業者に依頼する必要があります。複数の石材店から見積もりを取得し、費用と作業内容を比較検討しましょう。

霊園によっては指定の石材店がある場合があるため、事前に確認が必要です。見積もりには、解体費用、運搬費用、廃棄費用、遺骨取り出し費用などが含まれているか確認しましょう。

改葬先の決定と契約

新しい供養先を決定する際は、実際に現地を見学し、アクセスの良さ、費用、管理体制などを総合的に判断します。永代供養墓、納骨堂、樹木葬など、家族のニーズに合った選択肢を検討しましょう。

契約前には、永代供養の内容、年間管理費の有無、将来的な費用負担について詳しく確認することが重要です。

行政手続きと必要書類

墓じまいには法的な手続きが必要です。適切な書類を準備し、正しい手順で申請を行いましょう。

必要書類の準備と管理

墓じまいに必要な書類は以下の通りです。

• 改葬許可申請書
• 埋蔵証明書（現在の墓地管理者発行）
• 受入証明書（新しい供養先発行）
• 申請者の身分証明書
• 戸籍謄本（故人との関係証明）

これらの書類は、手続きが完了するまで大切に保管し、コピーを取っておくことをお勧めします。

改葬許可証の取得手続き

遺骨を移動するには「改葬許可証」が必要です。現在のお墓がある市区町村の役場で「改葬許可申請書」を提出し、許可証を取得します。

申請には、現在の墓地管理者が発行する「埋蔵証明書」と、新しい供養先が発行する「受入証明書」が必要です。手数料は数百円から1,500円程度で、自治体によって異なるため事前に確認しましょう。

墓じまいの費用内訳と相場

墓じまいにかかる費用は、作業の内容や地域によって大きく異なります。詳細な費用内訳を理解して、適切な予算計画を立てましょう。

墓じまい関連費用の詳細

墓じまいの基本的な費用は以下の通りです。

項目	費用相場
墓地解体費用	10万～15万円／㎡
遺骨取り出し費用	3万～5万円／人
閉眼供養費用	3万～5万円
離檀料	数万円～20万円
行政手続き費用	数百円～1,500円

墓じまい関連の総費用は30万円から300万円程度と幅広く、お墓の規模や立地条件によって大きく変動します。

改葬先別の費用目安

新しい供養先の費用は選択する方法によって大きく異なります。

供養方法	費用相場
一般墓	100万～300万円
永代供養墓	5万～150万円
樹木葬	8万～80万円
納骨堂	10万～150万円
散骨	5万～200万円
手元供養	数千円～3万円

費用だけでなく、継続的な管理費の有無や立地条件も含めて総合的に判断することが重要です。

費用負担を軽減する方法と制度

墓じまいの費用負担を軽減するための方法や制度を活用することで、経済的な負担を軽減できます。

親族間での費用分担

墓じまいの費用は、親族間で分担することを検討しましょう。故人との関係の深さや経済状況を考慮し、公平な分担方法を話し合って決めることが大切です。

費用分担を決める際は、墓じまいの費用だけでなく、新しい供養方法の維持費用についても考慮する必要があります。

自治体の補助金制度の活用

一部の自治体では、墓じまいに対する補助金制度を設けています。市川市、浦安市、太田市、苫小牧市などで実施されており、支給額は数万円から20万円程度です。

補助金の申請には、撤去後の申請、領収書の提出、必要書類の準備などが条件となります。お住まいの自治体で補助金制度があるか確認してみましょう。

複数業者からの見積もり比較

石材店や墓じまい業者から複数の見積もりを取得し、費用とサービス内容を比較することで、適正価格での契約が可能になります。

見積もりを比較する際は、作業内容、使用する機材、廃棄方法、保険加入状況なども確認し、総合的に判断しましょう。

墓じまいで注意すべきトラブルと対処法

墓じまいを進める際に発生しやすいトラブルとその対処法を知っておくことで、スムーズな手続きができます。

親族間トラブルの予防と解決

親族間での意見の相違は、墓じまいで最も多いトラブルの一つです。事前の十分な話し合いと、墓じまいの理由の明確な説明が重要です。

反対意見が出た場合は、感情的にならず、故人への敬意を保つ方法や新しい供養方法のメリットを丁寧に説明しましょう。必要に応じて、専門家の助言を求めることも有効です。

寺院との離檀料トラブル

寺院墓地の場合、離檀時に高額な離檀料を要求されることがあります。離檀料の相場は数万円から20万円程度ですが、明確な基準はありません。

トラブルを避けるため、事前に離檀料について確認し、金額に納得できない場合は話し合いを行いましょう。必要に応じて、宗教法人の監督官庁に相談することも可能です。

業者選びでの注意点

悪質な業者による高額請求や不適切な処理のトラブルも発生しています。複数の業者から見積もりを取得し、実績や評判を確認することが重要です。

契約前には、作業内容、費用、スケジュール、保険加入状況を書面で確認し、口約束だけでなく契約書を交わすようにしましょう。

墓じまいの実施時期とスケジュール

墓じまいを実施する時期やスケジュールの計画も重要な要素です。適切なタイミングで行うことで、スムーズな手続きができます。

適切な実施時期の選択

墓じまいは年間を通して実施可能ですが、お彼岸や年末年始などの繁忙期は避けた方が良いでしょう。業者の予約も取りやすく、費用も抑えられる可能性があります。

また、親族が集まりやすい時期に合わせて計画することで、閉眼供養への参加や合意形成がスムーズに進みます。

手続きから完了までの期間

墓じまいの手続きから完了までは、通常2か月から6か月程度かかります。親族の合意形成、行政手続き、業者の手配などに時間を要するためです。

特に人気の高い改葬先や繁忙期の業者手配は時間がかかることがあるため、余裕を持ったスケジュールを組むことが大切です。

墓じまい後の心構えと新しい供養の形

墓じまいを完了した後も、故人への供養は続きます。新しい供養方法に適応し、心構えを整えることが大切です。

新しい供養方法への適応

従来のお墓参りとは異なる新しい供養方法に慣れるまで時間がかかることがあります。永代供養墓や納骨堂でのお参りの仕方、手元供養での故人の偲び方など、新しい方法を理解しましょう。

家族で新しい供養方法について話し合い、故人への想いを共有することで、心の整理もつきやすくなります。

継続的な故人への想い

墓じまいを行っても、故人への想いや供養の気持ちは変わりません。新しい供養方法でも、定期的にお参りや供養を行い、故人を偲ぶ時間を大切にしましょう。

家族の負担が軽減されたことで、かえって故人のことを思い出す機会が増え、より身近に感じられるようになることもあります。

まとめ

墓じまいは、現代社会の変化に対応した新しい供養の選択肢として注目されています。適切な手順で進めることで、家族の負担を軽減し、故人への敬意を保ちながら新しい供養方法を実現できます。

• 墓じまいは遺骨の改葬と墓地の返還をセットで行う手続きです
• 親族間の十分な話し合いと合意形成が成功の鍵となります
• 改葬許可証の取得など、法的な手続きが必要です
• 費用は30万円から300万円程度と幅広く、複数の見積もり比較が重要です
• 永代供養墓、樹木葬、納骨堂など多様な選択肢があります
• 自治体の補助金制度を活用することで費用負担を軽減できます
• トラブル回避のため、事前の十分な準備と専門家への相談が有効です

墓じまいを検討されている方は、まず家族で十分に話し合い、専門家に相談することから始めましょう。適切な情報収集と準備により、故人にとっても家族にとっても最良の選択ができるはずです。